
投資回収期間はどれくらいが適切?
純ちゃんにいきなり質問です!借入金の返済は会社のどんなお金の中から行われますか?
それくらいわかりますよ。借入金の返済原資は、税引後利益と減価償却費ですよね。これでも少しは勉強してるんですからね。
うーん。惜しい・・・。
えっ!?正解じゃないんですか?確か私が勉強した会計の本にはそう書いてあったと思うんですんが・・・。
実はほとんどの人がそう答えるんだよね。でもよく考えてみて。財務的視点で考えると借入金の返済財源はまず現預金残高からでしょ?
それはもちろんそうですよ。借入金の返済は普通預金からするって事ぐらいはさすがに私もわかってますよ〜。
そういう意味で言ったんじゃないんですよ。極論ですがこういう事が言いたかったんです。会社を設立して金融機関から融資を受けました。融資金額には手をつけずに、すぐ返済しました。つまりは融資金額に全く手をつけずに現預金残高として保持しておけば、実質無借金である事と変わらないという事です。
分かったような、分からないような・・・。
いいですか。財務基盤を高めるためには融資を受けてでも平均月商3ヶ月分の現預金残高を維持しましょうという事を以前お話ししましたよね。
はい。
例えば平均月商100万円の会社があったとすると、現預金残高はいくら必要になるかな?
平均月商の3ヶ月分なので300万円です。
そうだね。もしこの会社の自己資金で用意した現預金残高が100万円だとしたら、後200万円は融資などで補充しておく必要があるよね。
そうですね。
では、もしこの会社がこの現預金に全く手をつけずにビジネスをしていて、融資先に毎月10万円を返済する事になっていたとしたら、最大何ヶ月間実質無借金の状態が続くかな?これは例えだから利息とかは考えなくていいよ。
借入したのが200万円で、借入た金額をそのまま毎月10万づつ返していったとしたら20ヶ月ですね。
そうだよね。極端な事をいえばこの会社は20ヶ月は借入をしているにも関わらず、借入金と同じ額の現預金残高があるから実質無借金という事ができるよね。このように、私は融資を受けてでも財務基盤を高める為に平均月商の3ヶ月分の現預金残高を維持しましょうと言い続けてきましたが、預金残高として借入金と同額以上が残っているのであれば、借入金の返済は維持している現預金残高から返済すれば何の問題もないのです。なぜなら、借入金の残高よりも現預金残高の方が少なくならない限りは実質無借金だからです。
確かに借入はしているけれども、借入金額と同額が現預金残高として残っていれば極論、一気に借入金を返済してしまう事が可能ですもんね。
その通りだね。でも実際はこんなにうまくはいかない。なぜなら、大抵の会社は事業の展開上どうしても投資が必要になってきてしまうからね。例えば固定資産などだね。他にも固定資産に反映されなくても投資に当たるものがあるんだけど、何かわかるかな?
広告とかですか?
その通り!人材の採用や広告宣伝です。これも大きなお金が動くという意味ではれっきとした投資になります。ただ税法上経費とする事が認められているので、損益計算書に反映されているだけです。財務の世界では税法上、資産とされるものでも、経費とされるものでも、現預金が会社から出て行けばそれは赤字と考えた方がいいんだよ。
へ〜税法と財務では随分考え方が違うんですね。
何度も言うけれども、税法はあくまでも税金の計算であって、財務は実際の経営に直結する考え方だからね。税務と財務で考え方が違ってくるのは当然なんだよ。
そうでしたね。すいません。
話を戻すと、つまり以上の事を踏まえて考えると、現預金残高を月商の3ヶ月分にするための借入の返済は、そのまま現預金から、投資をした現預金の借入の返済はその投資から生み出された税引後利益(+減価償却費)から返済されるという事になります。だから最初の質問での純ちゃんの答えはある意味合ってるんだよ。ただ、財務としては今まで説明してきたようにもう一声欲しいという意味で「惜しい・・・」と言ったんだ。
やっぱり合ってたんですね。答えとしては合っているけど、財務視点では少しだけ足りなかったという意味だったんですね。
そうなんだ。
ちょっと安心しました。
じゃあ次に今までの事を踏まえて、改めて投資の回収について今度は考えてみよう。
投資の回収ですか・・・?
そう!じゃあ早速問題。投資のための借入金を返済期間5年で調達しました。投資回収年数は何年を目指さなければならないでしょうか?
普通に考えると返済期間が5年だから、投資回収年数は5年でいいはずですよね。
会社は法人という生き物ですから、世の中想定通り安定して毎年回収できるとは限りませんよ。逆に想定通りにならない事の方が多いのではないでしょうか?
実際はそうだとは私も思いますが、では一体5年でないとすればどれくらいの投資回収期間を見積もっておけばいいでしょうか?
そうですね。金融機関が企業の投資に充てるお金を融資してくれる場合、これを設備資金と言うのですが、融資を実行するには投資回収期間は3年未満であることが望ましいです。私もそういった投資の相談に来られたお客様には投資回収期間は3年を目安にアドバイスさせていただいています。例えば投資回収期間が3年を超える計画を立てていくと、借入をして3〜4年目に想定外の売上低下などトラブルがあると一気に資金繰りが悪くなっていく事が予想できます。そのため計画の段階で、もう少し売上を伸ばせないか、原価を下げられないか、固定費を削減できないか、そもそもの初期投資金額を抑えられないか、など積極的なコミュニケーションをして、何とか投資回収年数を3年でまとめるような計画に練り直したりしています。それほどまでに投資に対してはシビアに見ています。
なぜ投資に対してそこまでシビアなんですか?リスクの問題ですか?
そうですね。私は今まで多くの会社様の相談に乗ってきましたが、赤字経営で倒産しそうだという会社はかなり前から経営が厳しい状況が続いている事が多く、最低固定費までに絞り込めばまだ何とか時間が稼げる感じがします。しかし、どちらかといえばこれまで少しずつでも黒字経営をしてきた会社が、大きな投資にチャレンジして失敗した場合は、それこそ一気に資金のショートを起こし、黒字倒産してしまう場合が多いんです。実際に倒産する最大の要因は投資の失敗と言っても過言ではありません。
そうなんですね。だから例え返済期間5年で調達したとしても、それを投資に充てるのであれば3年未満で回収できるだけの見通しをしっかり立ててからじゃないと倒産のリスクが高くなってしまうということなんですね?
そうなんだ。しっかり投資回収を考えてこその投資だという事を経営者はしっかり理解しておかなければいけないという事だね。
本日のまとめ
- 財務上、現預金が会社から出て行くのは赤字と思うべし!
- 現預金残高を月商の3ヶ月分にするために借入したお金の返済は維持している現預金の中から、設備資産や人材の確保、広告など投資に充てた分は投資によってもたらされた税引後利益(+減価償却費)の中から返済する。
- 投資の回収期限はリスクを考えて、3年未満に設定すべし!
- 企業が倒産する最大の原因は投資の失敗、投資を行う際には投資した金額を3年未満で回収できる見通しをしっかり立てること。
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