
投資の意思決定の優先順位とは?
中田先生、売上が5億円を超えてくると投資の機会も投資額も増えてくると思うのですが、投資の意思決定をする際に気をつけるべきポイントなどはありますか?
もちろんあるよ。前にも何度が説明したと思うけど、企業が倒産する一番の理由は「投資の失敗」だからね。投資の意思決定は財務戦略において重要なテーマの一つだと言えるね。売上が数千億円、数兆円規模の上場企業ですら「投資に失敗したので本決算において特別損失を数百億円計上します!」なんてことがありますからね。
確かによくニュースなどでそういったことがよく取り上げられていますよね。数百億円規模で損失を計上しているのに、なぜその会社が倒産しないのかいつも不思議でたまらなくなります。
そうですよね。中小企業だったら1,000万円程度の赤字決算でも存続が危ぶまれるのに、数百億円の赤字でも潰れないなんて「一体上場企業はいくらの現預金残高をもってるんだ!」ってツッコミを入れたくなりますよね。また、そういったニュースを見て、それだけ上場企業は財務戦略を駆使しているということに気づかなければならないんだよね。私たちのような中小企業は特にね。
そうですね。
さて今回は投資の意思決定がテーマだよね。投資の意思決定で気をつけるべきポイントは優先順位です。投資の意思決定の優先順位は3つあります。まず1番優先すべきなのが、その投資金額が貸借対照表の純資産の部の合計と比較してどうかということです。
比較してどうなれば投資して良いという判断になるのでしょうか?
純ちゃんはどうだと投資して良いと判断できると思いますか?例えば計画している投資金額は1,500万円、純資産の部の合計が1,000万円だとしよう。この状況で純ちゃんはどういう意思決定をしますか?
すいません。全く想像がつきません。
じゃあ、一緒に考えていこう。財務戦略において一番やってはいけない事は何だったか覚えているかな?
えーと、現預金残高が少ないこと、あと赤字決算・・・あっ!分かりました!債務超過です!
そうだね。財務の世界において債務超過は絶対に避けるべきことだと以前お話しましたね。しかし、純資産の部の合計が1,000万円という状況にもかかわらず1,500万円の投資をして、万が一その投資が失敗に終わってしまったら、1,500万円の損失が計上され、一気に債務超過になってしまいますよね。このように債務超過の可能性のある投資は絶対に避けるべきです。よく見かけるのが、創業間もない頃に十分な資本金でないままに保有する現預金のほとんどを投資して失敗するケースです。

なるほど。だから「創業間もないころは少額投資で」と言われているんですね。
そうです。債務超過になって会社が倒産してしまっては元も子もないですからね。
投資の意思決定で一番目に優先すべきこと
- 投資金額と貸借対照表の純資産の部を比較し、投資に失敗した場合に債務超過になる可能性があるかどうかを判断する。
その次に考えなければならないことが、現状の売上と利益についてです。
売上と利益がどうなっていればいいんでしょうか?
うーん。じゃあここで純ちゃんに1つ質問。仮に純ちゃんがある会社を創業したとしよう。創業から少額投資で何とか経営を軌道にのせました。そろそろ次の投資を行いたいなという時に、純ちゃんならどんな投資をイメージするかな?
そうですね〜。私なら最初の投資に成功したので「私はできる!」と信じて勝負にでます!
純ちゃんは見かけによらず勝負師だね・・・。でも事業は博打にしちゃダメだよ。冷静に考えてみて。財務戦略は絶対に潰れない会社を作ることが目的なんだよ。そう考えると投資をして勝負するにはまだ早いよね。なので、次に考えることは、既存の売上と利益で今回の投資を回収できる余力があるかどうか、です。
???
もっと具体的に言うと、既存事業の投資回収年数は3年位で回っていて、その借入は5年返済で賄っている。今回の投資も既存同様の少額投資なので、最悪今回の投資が失敗しても既存の売上と利益で投資回収できる。投資回収年数は5年になってしまうけれど、何とか大丈夫という事業計画が描けるかどうかを判断します。
最初と比べていきなり判断の内容がレベルアップした様な感じがするのですが・・・。
もちろんですよ。なんせ売上5億円超を目指すための財務戦略ですからね。これ位のことは考えて意思決定をしていかなければなりません。売上5億円の会社には何人の社員がいますか?その社員1人ひとりが何人の家族を養っていますか?そう考えると、売上5億円規模の会社の経営者は地元の町内会長位の感覚でないとダメですよ。
確かにそうですね。社長1人だけの企業であればまだしも、社員を養っていかなければならないという責務がありますもんね。
投資の意思決定で二番目に優先すべきこと
- 既存の売上と利益で、なんとか投資金額が回収できる見込みがあるかどうかを判断する。
投資意思決定の優先順位の最後は、その投資の投資回収年数が3年未満という事業計画になっているかどうかです。
2番目と何が違うのでしょうか?
2番目は、今回の投資と過去の投資を合算して、過去の投資の売上と利益で全てを回収できるかということでしたね。最後のものは過去の投資は一切関係なく、今回の投資単独で考えます。それが2番目との違いです。今回の投資によって生み出される売上と利益で今回投資した金額を3年未満で回収できるかを判断していきます。
なるほど。過去の投資と切り離して単独で考えるわけですね。
そうです。例えば過去にいい加減な投資を繰り返していたために、借入が膨らんでいる割には売上と利益が積み上がっていない場合や、節税をしている場合に、次の投資計画の設備投資を金融機関に断られてしまうケースがあります。この場合には、過去の投資計画の延長戦では絶対に金融機関からの融資はおりません。なぜなら、過去の投資回収ができていないと判断されているからです。こうした場合には、過去の投資計画は完全に無視して「今回の投資計画は〜なので3年未満回収となっております」といった説明を金融機関にしなければなりません。もしかしたら少額投資にならざるを得ないかもしれませんし、業態変更や仕様変更をしなければならないかもしれません。いずれにしても過去の投資が良くなかった訳ですから、過去から少し離れなければ先に進むことはできません。
なるほどですね。
投資の意思決定で三番目に優先すべきこと
- 新しく行う投資の回収年数が3年未満であるかどうかを判断する。
以上のように投資の意思決定をする場合には、それぞれの会社の状況とステージによって意思決定の順番があるということなんです。それをしっかりと覚えておいてくださいね。
投資の意思決定は最終的には経営者の「行ける!」という気持ちなんだと思っていましたが、今回の講義を聞いてとてもロジカルであることに感動しました!ありがとうございます。
私は純ちゃんが意外と勝負師だと知って感動したよ・・・。
本日のまとめ
- ・売上高が5億円規模になった際に投資の意思決定で注意すべきポイントは次の3つ。優先順位は①②③の順番。
- ①投資金額と貸借対照表の純資産の部を比較し、投資に失敗した場合に債務超過になる可能性があるかどうかを判断する。
- ②既存の売上と利益で、なんとか投資金額が回収できる見込みがあるかどうかを判断する。
- ③新しく行う投資の回収年数が3年未満であるかどうかを判断する。