
高い売上総利益率よりも、正しい売上総利益率
前回の「売上高」の講義で「売上総利益率」という言葉が出てきたと思うんだけれども、今日はこの売上総利益率について考えていこう。
えっ、売上総利益率っていわゆる売上の中に占める利益の割合のことですよね。
その通り!さすが、ちゃんと勉強しているね。売上総利益は粗利益(あらりえき)とも呼ばれていて、70円のものを仕入れて100円で売った。利益は30円でした。その時の売上総利益率(粗利益率)は30%ということだよね。
そうですよね。その売上総利益率について他に知っておいた方がいいことがあるんでしょうか?
それがあるんですよ。じゃあ一つ純ちゃんに質問だ。売上総利益率は高い方がいいでしょうか?それとも低い方がいいでしょうか?
それは、もちろん高いに越したことはないのではないでしょうか?
残念でした。
えーっ。利益率は低い方がいいんですか?
それも違います。正解はどちらでもありません。
意地悪な質問をしないでください。一体どういうことなのでしょうか?
実は、売上総利益率は業種によってある程度相場が決まっているものなのです。たとえば理美容業が90%、飲食業が70%といった具合です。だから売上総利益率が高いか低いかは正直あまり財務上重要ではないんですよ。実践経営において重要なことは「売上総利益率(粗利益率)に応じた税引前利益率を計算して、しっかり残していますか?」ということなんですよ。
それは…会計事務所の方がしっかり計算してくれているものなんじゃないんですか?もしかして計算間違いをしてしまうケースが多いとか…。
いえ、そうではないですよ。足し算や引き算という点では間違いなく計算されています。じゃあここで1つ質問です。売上総利益(粗利益)はどうやって計算されるものでしょうか?
それは簡単ですよ。売上高から売上原価を差し引いたものです。

そうですよね。では、売上原価とは一体何に使ったお金のことでしょうか?
仕入れ代金とかじゃないですかね…?
仕入れ代金だけですか?
うーん。それ以外思いつかないですね…。
では、商品を仕入れてから、売上と利益が出るまでのプロセスを考えてみてください。
えっと、商品を仕入れて、それでお店で販売して、売れたら売上と利益がでますね。あっ!
気づきましたか?売上や利益を上げるためには商品を仕入れるだけではダメですよね。仕入れた商品を店頭で販売して、売れて初めて売上と利益になるわけです。

なるほど。その会社の仕入れから販売までほよく把握してみると売上原価って商品の仕入れ代金だけではないことが良く分かりますね。
そうなんです。例えば仕入れた商品を保管しておく倉庫の費用や、倉庫から店頭に運ぶための輸送費なんかも売上原価に入るよね。たとえば商品を原価の30円で仕入れて、100円で販売したとするよね。売上原価イコール仕入原価だと思っていると、この利益率は70%になる。でも、実際に倉庫から店舗までの輸送費が10円、倉庫の保管費用が10円かかっているのだとすれば、正しい売上総利益率は50円、つまり50%ということになるよね。これだけで会計上の利益率と実際の利益率の差が20%も生まれてしまう。この商品を10万個、20万個単位で仕入れるとなると差は相当額になるよね。
チリも積もれば山となるってことですね。
そういうことだね。それに気づかずに見かけ上の粗利益率ばかりを見ていたら、後々に思わぬところで足をすくわれることになってしまうんだ。
確かに!粗利益率70%と喜んでいたら、意外とそうでもなかった、なんてことが起こるんですね。
そうだね。だから大切なのは、売上総利益率ではなくて、売上総利益率に応じた正しい税引前利益率を計算することだということに気づいて欲しいんですね。そうでないと、目標とすべき税引前利益率を見誤ってしまうことになりかねないんです。正しい粗利益率を知ることで目標とすべき税引前利益率を知る。これが結果として金融機関からの良い評価にもつながってくるんです。
これまでの経理処理 | 正しい認識に基づいた経理処理 | |
---|---|---|
売上高 | 100 | 100 |
売上原価 | 30 | 50 |
粗利益 | 70 | 50 |
粗利益率 | 70% | 50% |
固定費 | 50 | 30 |
営業利益 | 20 | 20 |
税引前利益 | 7 | 7 |
税引前利益率 | 7% | 7% |
目標とすべき税引前利益率 | 10% | 7% |
金融機関評価 | △ | ◯ |
一番最初の質問で「利益率が高いか低いかはどちらでもいい」と言ってた真意はそこにあったんですね。なんだか、感動しました!
机上の勉強と実践経営の財務はまったく違うということが少しは分かってきたでしょ?
はいっ!もっと財務のことを勉強したくなりました!
いいね!どんどん私の財務の知識を教えていくから、その調子でどんどん勉強していこうね!
はい!よろしくお願いします。
本日のまとめ
- 高い売上総利益率よりも、正しい売上総利益率を計算することの方が財務として重要
- 正しい売上総利益率を計算することで初めて目標とすべき税引前利益率が見えてくる。結果として金融機関の良い評価にもつながってくる。