
売上3億円の壁を突破するために、知っておくべき借入金のコト
今日は創業のための資金調達方法について学んで行こう。
これから創業しようという人にとっては一番重要なポイントですね。
そうだね。これから創業しようという人にとっては、活動資金は必要不可欠なものだからね。
たとえば活動資金として500万円が必要になったとして、一体こんな大金をどうやって集めていけばいいんでしょうか?
一般的に広く知られている中小企業の資金調達の方法は株式の発行だね。でも創業時ともなると会社の規模は小さく、社会的知名度も無いから、株式を発行しても誰も買ってくれない。
それはなぜですか?
だって、何の社会的信用もない、これから先存続するかも分からないような会社にお金を貸したり、株式を購入したりするのは非常にリスキーだと思わない?極端なことを言えば、道端でたまたま会ったおじさんに「1週間後に返すから1万円貸してくれ」と言われて貸してしまうようなものだよ。
確かに、そうですね。でも、創業したての企業ってほとんどの場合がそれに該当すると思うんですが、その場合には一体どのように資金調達を行えばいいのでしょうか?
ほとんどが金融機関からの融資だね。少額であれば他企業や個人からの融資によって資金調達していることもある。
つまり借金ということですか?
そうだね。このように株式の発行以外で調達したお金の事を借入金と呼ぶんだよ。一言に借入金と言っても「借り方」によっていろいろな種類があるんだけどね。
借入金にもいろいろ種類があるのですか?私には借りたものは「借りたもの」としか思えないのですが…。
確かに借入金には種類がいろいろあるけれども、借りたものは「借りたもの」という認識は個人も法人も一緒だよ。「返さなくちゃいけないもの」という認識もね。
POINT!
- 企業の資金調達方法は主に「株式・社債の発行」「金融機関などからの融資(借入金)」
- 創業間もない会社は社会的信用が低いため、融資によって資金調達することが多い
じゃあここからは借入金の種類について説明していくよ。
よろしくお願いします。
借入金は「保証の仕方」によって「保証協会付融資」と「プロパー融資」の2種類に分けることができるんだ。
「保証の仕方」ですか…?
そう。お金を貸す訳だから、そのお金がもしも返せなくなったときはどのようにして返済するかを予め決めておく必要があるよね。これが「保証」の考え方。
なるほど。その保証のやり方が「保証協会付融資」と「プロパー融資」では違ってくるということですね。
その通り。まず、「保証協会付融資」というのは、各都道府県にある信用保証協会が、もし仮に返済出来なくなった場合に代わりに返済をしてくれるという保証の付いた融資なんです。
もしもの時を考えると安心できますね。
そうだね。その分、お金を貸す側の金融機関としても、倒産してお金が戻ってこないリスクを回避できるので融資をしやすくなっているんです。ただし、借りる側はこの保証協会に保証料を支払わなければならない。
賃貸アパートを契約する時に支払う保証料みたいなものですね?
そうだね。一方で、保証協会付融資とは対象的に、会社の倒産リスクを貸す側が全て背負って融資をするのが「プロパー融資」です。
なるほどですね。貸す側は保証協会の保証がなくなる代わりに、それを保証人や不動産担保などで補ってリスク管理をしている訳ですね。
その通り。当然貸す側のリスクが大きくなる訳ですから、その分貸出金利は高くなります。その代わり、保証協会付融資のように保証料を支払う必要はありません。
今の説明を聞いただけでは、やはり借りる側としては保証料を支払えば融資を受けやすく、代わりに弁済もしてくれる「保証協会付融資」がリスクが少なくていいと思いました。逆に金利が高くなるのであれば、プロパー融資は避けるべき存在なのではないでしょうか?
鋭い質問だね!確かに純ちゃんの意見にも一理ある。しかし、保証協会付融資には次の表のように借入金の上限があるんだ。一方でプロパー融資は企業の社会的信用度合いや担保にもよるけれども、そういった上限が特に設けられていない。その代わり借りる時の審査は保証協会付融資よりも厳しくなるけどね。
借入金の種類 | 借入金の上限 |
保証協会付融資 | 担保のない企業:8,000万円以下 担保のある企業:1億8,000万円以下 |
プロパー融資 | 無制限 |
だから、ほとんどの場合は保証協会付融資を受けて創業することが多いんだ。創業時に金融機関から融資を受けづらい時に「保証協会付融資」というものを使うのが一般的だね。
なるほど。融資が受けづらい場合には利息と保証料を支払ってでも「保証協会付融資」を受けて、手元の現預金を増やして、経営を始める。そして業績を伸ばして返済を進めながら徐々にプロパー融資というものにシフトしていく。もし融資が受けづらい場合はそうやって経営を進めていけばいいんですね。
そうだね。
POINT!
- 借入金は「保証の仕方」で「保証協会付融資」と「プロパー融資」の2種類に分けられる。
- 「保証協会付融資」と「プロパー融資」のメリットとデメリット
借入金の種類 | メリット | デメリット |
保証協会付融資 | ・保証協会の保証が付いているため金融機関からの融資が受けやすい | ・利息と共に保証協会に保証料を支払わなければならない ・借入金に上限がある |
プロパー融資 | ・借入金に上限がない ※社会的信用や担保による |
・利息が高い |
- 本来はプロパー融資を受けたい。しかし、プロパー融資は審査が厳しいため創業時などは通りにくい。その場合に保証料と利息を支払って「保証協会付融資」を受けるのが一般的。
ちょっとここで1つ質問です。たとえば純ちゃんが金融機関の立場だとしたら、融資の相談に来た人に、あえて自分たちにとってリスクが大きいプロパー融資を勧めますか?
う〜ん、そもそもプロパー融資というもの自体知らなかったですし、私が金融機関の人間だったら間違いなく「保証協会付融資」を勧めますね。だって大きなリスクを背負いたくないですし。
そうだよね。融資の現場でも実際そうなんだ。だから「プロパー融資」というものがあること自体知らない経営者が多いんだよ。実は、この「保証協会付融資」から「プロパー融資」への切り替えをいかにスムーズに行うかが、売上を伸ばし、会社を成長させ続けるために重要なポイントであって、同時に多くの経営者がつまずくポイントでもあるんです。
「保証協会付融資」には借入金の上限が設けられているから、ということでしょうか?
そうだね。たとえばここに、売上がおおよそ3億円位、保証協会付融資での借入残高が8,000万円位、日本政策金融公庫という政府系金融機関からの借入が2,000万円位あったとしよう。この会社を見て何か財務的に問題だと思うポイントはあるかい?
う〜ん。もうこれ以上保証協会付融資で借りれないということぐらいですかね…。
確かにそれもある。ただ、ここで問題だと感じなければいけないポイントは実は別にあるんだ。見た目上はわかりづらい、財務の潜在的な問題が実はこの会社にはある。
どこが問題なのでしょうか?
いいかい、売上規模が3億円近くになると、多くの経営者に欲が出てくる。これは「もっといけるんじゃないか」という欲だね。もちろん経営者だから欲はあっていいことなんだけど、この売上規模3億円になる頃というのは、経営者に無謀な欲が芽生えてくる頃なんだ。例えば、今までの成功事例とは違ったことをしようとしたり、大きな店舗で違った業態で勝負したいと思ったり、最近流行りの業種で勝負したいと思ったり、とにかくそんな欲が芽生えてくる。それで成功すればいいけれど、それで失敗するとこの会社はどうなるかな?
業績悪化…最悪の場合は倒産ですかね…。
そうだね。保証協会でもうすでに8,000万円の上限一杯までの融資を受けている上で、事業投資に失敗するわけだから、一気に資金繰りが悪くなってくるよね。もし純ちゃんがこの経営者の立場だったら次にどうするかな?
銀行に追加で運転資金の融資を受けに行きますね。
だよね!でも、ここで初めて保証協会付融資に上限があることを知り、追加融資が受けられないことが分かると、一気に資金がショートして倒産してしまうんだ。
金融機関側はその時に「プロパー融資はいかがですか?」って勧めてくれたりしないんですか?
そんな資金繰りが悪化して追加融資を求めてきた経営者に金融機関側が自らリスクを被ってまでお金を融資すると思う?
確かにそうですね。
だからこそ事前に「保証金付融資」から「プロパー融資」へいかにスムーズに移行させるかが財務の大切なポイントなんです。
財務のポイントですか?
財務というのは絶対に会社が潰れないための戦術・戦略ですから、今までと違ったことをするときは、もしこの事業投資が失敗に終わったとしても会社が潰れないような状況を作ってから、行う必要があるということですね。例えば先ほど例に上げた会社も新しい事業投資をする前にしっかりと「プロパー融資」への移行をしてから、行えば何の問題もなかった訳なんです。
財務って大切なんですね。
そうですね。会社が潰れてしまっては、全ておしまいですからね。
POINT!
- 金融機関は積極的に経営者に「プロパー融資」を勧めない
- 売上を伸ばし、会社を継続的に拡大させ続けていくためには「保証協会付融資」から「プロパー融資」へのスムーズな移行が大切。
- 売上3億円規模になると、経営者には無謀な欲が芽生えてきやすくなる。新しい事業投資を行う前には、失敗しても会社が潰れない準備をしておこう。
実は借入金には「保証の仕方」だけではなく「返済期間」によっても「短期借入金」と「長期借入金」の2種類に分けることができます。
借入金の種類 | 返済の期間 |
短期借入金 | 1年未満 |
長期借入金 | 1年以上 |
まだあったんですね!
ええ。保証と同じぐらい「返済期間」は大切ですよ〜。もう少し頑張ってください。
はい。頑張ります。
純ちゃんは借金は早く返した方がいいと思う?それとも長い期間でゆっくり返していった方がいいと思う?
それは早く返した方がいいに決まってますよ。親にも「借金だけはするな」って何度も言われて育ちましたから!
そこが個人と法人の違いだね。先日の講義で「財務で一番重要な事」として紹介したのは何でしたか?
現預金残高ですよね!覚えています。
そう!借金をしてでも現預金残高を持っておいたほうがいいというお話をしたよね。確かに個人の人が消費者金融からお金を借りる場合には、早く返した方がいいかもしれないけれど、ビジネスでは借金は悪ではない、むしろ今現在使えるお金が無いことの方が悪なんだ。ここはよく頭に焼き付けて置いてね。
そうでした…(えへへ)
ではもう1つ質問するよ。現預金残高を多くするためには、借入金の返済期間は短い方がいいでしょうか?それとも長い方がいいでしょうか?
それは長期返済の方ですよね。月々に返済するお金の額が小さくなりますから。
正解です。財務的な視点で言うと、借入金の返済期間は長ければ長いほど良いのです。私なんて数千万円の借入をなんと30年以上の返済期間で行っていますよ。
それってもしかして住宅ローンのことではありませんか?
そうです。住宅ローンも立派な借入です。でもそれだけ長い返済期間があるので、毎月の返済を意識したことはありません。それくらい長期返済は資金繰りを楽にするんですよ。
でも、長期返済にすればするほど、支払利息が増えるのではないでしょうか?
おっ!いいことに気づいたね。支払利息の詳細はまた後日お話しますが、結論から言うと企業にとっては増えてもいいんです。
えーっ。増えてもいいってどういうことですか?
企業にとって事業のための借入利息というのは立派な経費になります。要するに支払利息で経営さえ圧迫しなければ、利息は増えてもいいんです。利息が増えるのを恐れて毎月の支払いを多くして、現金が手元に無くなって、経営を圧迫するよりは、数%多くはらったとしても現金を手元に残す。これが財務の基本ですよ!
とにかく「現金を手元に残す」これが大前提なんですね。
そうです。しっかり頭に焼き付けてくださいね!また支払利息の話は後日しますが、今日の借入金の講義はここまでです。お疲れ様でした!
ありがとうございます。
POINT!
- 借入金には「返済期間」の長さによって「短期借入金」と「長期借入金」の2種類に分けられる
- 「短期借入金」は1年未満で返済しなければならない借入金。それ以上の期間で変s内しなければならないのが「長期借入金」になる。
- 「短期借入金」と「長期借入金」のメリット、デメリット
借入金の種類 | メリット | デメリット |
短期借入金 | ・借入審査が通りやすい ・利率が低い |
・毎月の返済元金が多い |
長期借入金 | ・借入審査が通りにくい ・毎月の返済元金が少ない |
・短期借入金と比較して、利率が高い |
- 財務の基本は「現金を手元に残す」こと。そのためには「返済期間」は出来る限り長期にした方が資金繰りが楽になる。
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ポイントはプロパー融資へのスムーズな移行